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「すまぬ。父が意地になって鎌倉公方様方に与したのがすべて悪い。実は安房守から書状が届いている。裏切れば安房一国の守護を約束するとな。他に鎌倉公方様に与した者には調略の手が回っておる。なので其方だけでも房総に落ち延びてほしい。父の願いだ。頼む。聞き入れよ」
「ならば父上はどうするのです。態々火を懸けずに脱出すればよろしかりましょう。儂は得心できませぬ。なにかご事情がございますので? もしや?」
「その通り。察しがいいな。今結城城は敵勢に囲まれておる。安房守は中務大輔と落城を共にすれば鎌倉公方様の御遺児の春王丸様、安王丸様の命は助けると申し出があった。安房守は二人を亡き者にするまではしまい。元はといえば鎌倉公方様と安房守との仲違い。なので安房守は二人には恨みはない。必ず助けるとの申し出だ。大事ないぞ」
「父上。その言葉をご遺言になされるおつもりか? 早まってはなりませぬ。おやめください。早まってはなりませぬ」
家基は素早く太刀を抜いて首に太刀を突き刺した。その場に家基は倒れこんだ。
義実は声が出なかった。家基を見ると息がない絶命している。
義実は「父上」と号泣した。家基の懐から大事にしていた『易経』と易に用いる筮竹と算木が零れ落ちた。
「父上の形見なるぞ。よくもやりおったな安房守奴。父を殺すとは許せぬ。我らも撃って出るぞ」
義実は『易経』と筮竹と算木を懐にしまい込んだ。大急ぎで厩へ向かった。厩で里見の一族と家基の旧臣が待っていた。その数、千五百。鎧兜や胴丸を纏った武将や雑兵が迎えた。
「大隅守様。撃って出ましょう。安房守の首を打ち取りましょうぞ。望むところです」
(ならば父上の弔い合戦だ。安房守よ。一泡吹かせてやる。しかし安房守に勝つきがしないのはなぜだ? 尤も早うせぬと誰かが城に火を懸ける。兵は神速を貴ぶと申す。一気に勝負を着けようぞ)
「すまぬ。父が意地になって鎌倉公方様方に与したのがすべて悪い。実は安房守から書状が届いている。裏切れば安房一国の守護を約束するとな。他に鎌倉公方様に与した者には調略の手が回っておる。なので其方だけでも房総に落ち延びてほしい。父の願いだ。頼む。聞き入れよ」
「ならば父上はどうするのです。態々火を懸けずに脱出すればよろしかりましょう。儂は得心できませぬ。なにかご事情がございますので? もしや?」
「その通り。察しがいいな。今結城城は敵勢に囲まれておる。安房守は中務大輔と落城を共にすれば鎌倉公方様の御遺児の春王丸様、安王丸様の命は助けると申し出があった。安房守は二人を亡き者にするまではしまい。元はといえば鎌倉公方様と安房守との仲違い。なので安房守は二人には恨みはない。必ず助けるとの申し出だ。大事ないぞ」
「父上。その言葉をご遺言になされるおつもりか? 早まってはなりませぬ。おやめください。早まってはなりませぬ」
家基は素早く太刀を抜いて首に太刀を突き刺した。その場に家基は倒れこんだ。
義実は声が出なかった。家基を見ると息がない絶命している。
義実は「父上」と号泣した。家基の懐から大事にしていた『易経』と易に用いる筮竹と算木が零れ落ちた。
「父上の形見なるぞ。よくもやりおったな安房守奴。父を殺すとは許せぬ。我らも撃って出るぞ」
義実は『易経』と筮竹と算木を懐にしまい込んだ。大急ぎで厩へ向かった。厩で里見の一族と家基の旧臣が待っていた。その数、千五百。鎧兜や胴丸を纏った武将や雑兵が迎えた。
「大隅守様。撃って出ましょう。安房守の首を打ち取りましょうぞ。望むところです」
(ならば父上の弔い合戦だ。安房守よ。一泡吹かせてやる。しかし安房守に勝つきがしないのはなぜだ? 尤も早うせぬと誰かが城に火を懸ける。兵は神速を貴ぶと申す。一気に勝負を着けようぞ)